介護ロボットの普及率はどのくらい?
介護施設の慢性的な人手不足の現状がメディアなどでも度々取り上げられており、その解決策の一つとして「介護ロボット」が注目されています。
とは言うものの、他の施設で介護ロボットを導入している話を聞いたことがない施設担当の方も多いのではないでしょうか。政府も介護ロボットに関しては、開発・普及に力を入れているものの、広く普及していないのが現状です。
今回は、介護ロボットの具体的な普及率を明示し、なぜ普及に至らないのかを解説します。また、介護ロボットの普及に成功している「北九州モデル」の事例を参考に普及を進めるためには何が必要か考察していきます。
この記事を読めば、介護ロボットの全国的な普及状況を理解することができ、普及している理由、していない理由がわかるでしょう。他施設の介護ロボット普及率を知って、自施設の検討材料にしてください。
介護ロボットとは?
ロボットと聞くと、どのようなものを想像するでしょうか。多くの方は人型のロボットを想像するかもしれません。
厚生労働省は、以下の3つの技術を満たしている、知能化した機械システムのことをロボットと定義しています。
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情報を感知(センサー系)
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判断し(知能・制御系)
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動作する(駆動系)
上記のうち、ロボット技術が応用されており、利用者の自立支援や介護者の業務負担の軽減に繋がるものが介護ロボットです。
介護ロボットの例として、見守りセンサーや移乗を支援する装着型マッスルスーツなどがあります。
介護ロボットの普及率は?
ここでは、介護ロボット普及率の調査結果を発表している資料をまとめました。
結論から言うと、多くの介護施設が介護ロボットの導入に至っていません。では、実際に介護ロボットがどのくらい普及しているかを見ていきましょう。
未導入の施設が8割|介護労働安定センター
公益財団法人介護労働安定センターが発表している「事業所における介護労働実態調査結果報告書」によると、介護ロボットを導入していないと答えたのが80.6%で、8割以上の施設で導入が進んでいないことがわかります。
介護ロボットを導入している施設では、「見守り・コミュニケーション(施設型)」が3.7%、「入浴支援」が1.8%、「移乗介助(装着型)」が1.5%の介護ロボットが普及しているとのことでした。
介護保険サービス系型別では、施設系(入所型)の介護ロボットは「見守り・コミュニケーション(施設型)」が16.6%と最も高い割合で、他の区分と比べても普及率は高くなっています。
今回発表した調査は、全国の介護サービス事業所農地から無作為に選出(18,000事業所)して、事業所調査の対象としています。
介護ロボットの普及が進まない理由
介護事業所では、介護ロボットの導入が半数近く進んでおり、半数以上が導入を検討しているとお伝えしてきました。
そんな普及率の高い北九州市でも、介護ロボットの導入が進まない理由があります。
「介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)」によると、「金銭面」、「機能面」、「情報不足」、「設置スペースの問題」などが導入が進まない理由に挙げられています。
中でも、導入が進まない最大の要因となっているのが、「コスト面」と「導入による費用対効果」がわからない点です。
他にも導入を考えていない理由を一つずつ見ていきましょう。
【機能面】
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現在の機能では、投資対効果が期待できないと感じている
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実用的な介護ロボットがない
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今後の性能面の進化があれば検討する
【情報不足】
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介護ロボットについてよく知らない
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どのような種類があるのかわからない
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情報が少なく、検討できない
【優先度】
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当施設職員は、現時点でしっかりと基本介護技術を身につける時だから
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施設内において他に改善点が多く、全体の優先度としては低い
【設置スペースの問題】
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ホーム内に介護ロボットを設置するスペースがない
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小規模施設であるため、ハード面で難しい
【その他】
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法人内で介護ロボット導入の話が出てこない
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必要としている利用者様がいない
介護ロボットの普及を進めるには
全国的にも介護ロボットの普及が進んでいる北九州市のデータを基に、導入を進めるためには何が必要かを考察します。介護ロボットの導入がなかなか進まない施設担当者の方の参考になれば幸いです。
自治体の後押し
北九州モデルは、介護ロボット・ICTなどを活用した業務マネジメントにより、介護現場の生産性向上に繋がり、介護スタッフの業務負担軽減や利用者のQOL向上などの介護の質を上げる取り組みです。
北九州モデルを事業所内で推進させる体制を取るためには、経営層から介護スタッフまで共通認識をもち、実践の中で問題点を洗い出して改善していくことが求められます。
介護ロボットの導入が北九州市で進んでいる理由には、自治体が後押ししていることが背景にあります。
介護現場の働き方改革を進めるためには、人とテクノロジーの融合による新しい働き方が求められており、それが「北九州モデル」にマッチしていたのです。
実際に、「北九州モデル」を介護現場で実証した結果、「利用者とのコミュニケーション」の時間が増加していることがわかっており、人員配置で見ても1.4倍の生産性向上が確認されています。
このように北九州モデルは、生産性向上による介護スタッフの業務負担軽減の効果や、職場環境の改善などが実証されたことで、自治体の後押しもあり介護ロボットの普及が進んでいます。
現場の意識改革
介護ロボットの普及には、現場の意識改革から始めなければいけません。そのためには、現場の声を聞く必要があります。
現場からよく聞かれる意見をいくつかピックアップします。
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操作が簡単なこと、準備に時間がかからないことが大事
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ロボットの性能を周知して効果的に活用する必要がある
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現場が本当に介護ロボットを必要とする意識改革が必要
上記のような意見が介護ロボットを効果的に活用するために必要なこととして挙げられていました。
コスト面や操作性などさまざまな課題はありますが、まずは否定せず、使いこなしてみようという現場の受け入れ体制を整えることが大事です。
介護ロボットは普及する?
一部の地域では、介護ロボットの普及が進んでいますが、全国的に見るとまだまだ普及が進んでいません。ここでは、介護ロボットの今後の展望を見ていきます。
慢性的な介護人材の不足
少子高齢化などの影響で、介護業界は慢性的な人手不足が深刻化しています。今後さらに介護人材の不足が加速するとも言われています。
実際に、「厚生労働省編職業分類」の資料によると、日本の介護人材の有効求人倍率は3.68倍(※2022年1月時点)となっており、全職業と比較しても高い水準です。
有効求人倍率とは、求職者一人に対して何件の求人があるかを示しています。つまり、求職者一人に対して、介護求人が3〜4件あるということです。
この深刻な人手不足を解消するために、政府は介護ロボットの開発・普及を推進していますが、現状は普及に至っていません。
介護ロボット導入を進める「重点分野」を設定
厚生労働省と経済産業省は、介護現場で介護ロボット導入を進めるために「ロボット技術の介護利用における重点分野」として、6分野13項目を設定しています。
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【移乗支援】装着型・非装着型
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【移動支援】屋外・屋内・装着
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【排泄支援】排泄物処理・排泄予測・動作支援
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【見守り・コミュニケーション】施設・在宅・コミュニケーション
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【入浴支援】
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【介護業務支援】
上記の分野を重点的に開発することで、利用者の自立支援によるQOLの維持・向上や介護スタッフの業務負担軽減の実現を目指しています。
現場との温度差を埋められるか
政府も介護ロボットの開発・普及に力を入れていますが、全国的に見ると普及率はまだまだ低いことがわかったと思います。
政府が介護ロボットの普及に力を入れているにも関わらず、普及が進んでいない理由として、「導入コストが高い」、「利用者や施設が介護業務にロボットを利用することに抵抗がある」などの理由から、介護ロボットの普及が進んでいません。
介護スタッフの「業務効率化・負担軽減」の視点で施策を進める限り、現場での導入は進まないでしょう。
介護ロボットの導入を進めるためには、現場で働く介護スタッフが持つ「職業観」や「使命感」を置き去りにせず、導入を進めたい国や開発メーカーと介護現場が一丸となっていく必要があります。
自動排泄処理ロボットシルバーは介護における夜間の排泄処理の介護者の負担を軽減するために生まれました。
介護ロボット「シルバー」は、清潔で快適な排泄をお手伝いします。